「光明」は年4回(正月/春彼岸/お盆/秋彼岸)の発行です。
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有限会社豊山
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煩悩ぼんのうすりつぶし機
「和尚、おはようございっ」
まだ朝の七時前だというのに、町内の大工の熊さんがやってきた。
「おや、熊さん、早いね」
「女房が早く行けっていうもんだからさ」
「お寺へ、かい?」
「昨日、漬け物屋のばあさんのお通夜へいった時、数珠じゅずをどこかへ落としたみたいでね。ひょっとしたら和尚のところへ届いているんじゃないかと思って……」
「届いていないけど……。ははあ、帰りにまた一杯やったね」
「そりゃ、あのばあさんにはガキの時分から、ずいぶん世話になったからね。いろんな思い出話をしながら、しっかりお清めして。成仏じょうぶつしてもらわないと困るでしょ」
「成仏は、今日のお葬式で、私が仏さまにしっかり頼むから大丈夫だよ」
「なるほど、これがほんとのダイジョウブツだ。わははは」
朝から、つまらないダジャレをよく言えるものだ。
百八の珠たま
「でも困ったね」
「そうなんですよ。これで数珠をなくしたのは三度目なんで。女房が『あんたは数珠と縁がないからもう買ってやらない』ってカンカンなんです。でも、今日だってお葬式にいくのに、数珠がないと恰かっ好こうがつかないでしょ」
「そうだね。きれいな心でお焼香できないと困るものね」
「へっ?きれいな心と数珠がなにか関係があるんですか」
「あるさ。だって、数珠は煩悩をすりつぶして、きれいな心にする道具でもあるからね」
「へぇ、あんなもので、どうやってすりつぶすんですか」
「私たちが使う数珠は、珠が全部で百八個あるんだよ」
「百八っていえば、除夜の鐘だ」
「そう。煩悩の数。それをすりつぶすつもりで、数珠をするんだよ」
小さな形で大きな仕事
「へぇ、そうなんですか。でも、なくした数珠は百八も珠はないですよ」
「ああ、それは四半繰しはんぐりっていって、普通の四分の一サイズだから」
「ははあ、そうやって小分けに俺に渡してたのか。でも、これで三度なくしたから、あと四分の一、かならずどこかへ隠してますね。女房のやつ……」
「いや、そうじゃなくて、持ちやすいように最初から小さく作られているんだよ。形は四分の一でも、煩悩をすりつぶすための道具だ。小さいからすれないけど、数珠を手にかけた時には『煩悩をなくして、きれいな心でお祈りします』という気持ちになって、合掌することが大切なんだ」
「それじゃ、なくしたらたいへんだ」
「きっと、だれかが漬け物屋さんに届けてくれているから、これからいってごらんよ」
「ああ、そうしよう。それじゃ、失礼しますよ。それにしても和尚はずいぶん物知りだね。毎度毎度、勉強になるな。いやあ、たいしたもんだ」
「まあ、そんなにほめなさんな」
「なに、俺は今、数珠はすれないけど、ゴマくらいはすれるんで」
「……」
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