季刊誌『光明』

令和元年-秋-第213号



弘法大師の言葉

木村秀明    真言宗豊山派総合研究院宗学研究所 所長/大正大学名誉教授/埼玉 成就院住職




六大無礙にして常に瑜伽なり


  この言葉と向かい合うたびに、目の前の当たり前の世界がぐにゃぐにゃに溶けて、とんでもない所へ吸いこまれていくような、それでいて心地よい温かい光に包まれていくような、不思議な気持ちになります。言葉で説明することがむずかしい、不思議な言葉です。


  六大ろくだいとは、何でしょうか? 地大ちだい水大すいだい火大かだい風大ふうだい空大くうだいの五つの大に、もう一つ識大しきだいを加えた、六種類の大です。


  最初の地・水・火・風・空の五大ごだいは、もともとインドの哲学によく出てくる語で、世界のすべてのものを造っている要素ようそだと言われています。大地や山や空や太陽や銀河や宇宙まで、この世のすべてのものが、この五大によって造られている、とされます。
もう一つの識大とは、心のはたらきだとされます。


  弘法大師は、この六大によってすべてが造られている、と説かれました。山や海や宇宙だけではなく、人間やありや植物などの命あるすべての生き物も、全部、この六大から出来ているのです。


  さらに、この六大は互いにさまたげあうことが無く( 無礙むげであって)、常に関係しあいながら調和して合一ごういつしている( 瑜伽ゆがしている)、というのです。世界のほんとうのあり方を説き明かしているのですが、なんとも奥深く、不思議な言葉です。


  すべての物質は原子から出来ている、と学校では習いました。地大や水大などは、現代の常識からすれば、とても信じられないと思います。一方、原子同士は互いに退け合います。隣の原子の中に入り込んだり、重なり合うことはありません。そのために、私たちは地面の上に立っていられるのです。しかし、原子は原子核とその周りを回る電子からできていて、その原子核はものすごく小さく、原子の中はすかすかだということです。目の前にあるものが、ほとんど空っぽとは、ちょっと信じられないことです。もし、そのように実感できたならば、確かにあると思っていた身の回りの世界が足下からぐにゃぐにゃになり、自分がどこにいるのかも分からなくなってしまう、そんな不安 に襲われそうです。


  さらに、最近の科学では、原子核は陽子や中性子やフォトンなどの素粒子そりゅうしから造られており、そのフォトンには、アップ(上)やダウン(下)などの名前が付けられているそうです。もうここまでくると、地大や水大と同じくらい不思議に聞こえてきます。


  ただし、これはものについての話しです。現代の科学は、ものと心や命はまったく別だ、と考えているようです。しかし、弘法大師は、ものも生き物も心も、みんな六大から造られているとされます。ものと心を造っている六大は、原子のように互いに退け合って別々にあるわけではなく、調和して常に互いに繋がり合わさっ ているのです。六大は、何かを造るとか造られるという考えさえも離れた不思議なものだ、とも弘法大師は言われています。


  私たち人間にも、地球や宇宙にも、すべてに心のはたらきを始めとする六大が行き渡り、命が満ちあふれているのです。すべてに大いなる命が行き渡っているのです。この大いなる命は、実は、仏さまそのものなのです。私たちはこの大いなる命に包まれているのです。それは、まるで温かい日の光のように私たちを包み込んでいるので、この仏さまを大日如来とお呼びしています。


六大無礙にして常に瑜伽なり

  この言葉は、すべてのものや命の本当のありかたを示し、欲と苦にまみれた現実の世界から、大日如来の温かい光の中へと私たちを導く、不思議な言葉なのです。



第213号目次へ戻る→




『光明』年間購読のおすすめ


『光明』は年4回(正月/春彼岸/お盆/秋彼岸)の発行です。

年間購読の予約をされますと、毎号直接、有限会社豊山よりお送りいたしますので、大変便利です。
檀信徒以外の個人の方もご予約できます。

年間購読料について

1部:900円(税込・送料含)、2部:1,300円(税込・送料含)、3部:1,650円(税込・送料含)、4部:2,000円(税込・送料含)、5部:2,400円(税込・送料含)
※6部以上をお申し込みの場合は、有限会社豊山までご連絡下さい。



有限会社豊山

〒112-0012 東京都文京区大塚5-40-8
TEL/03-3945-3555 FAX/03-3945-0702
(土・日・祭日・その他仏教行事等で、長期お休みを頂く場合も御座います。予めご了承下さいますよう宜しくお願い致します。)