VOL.4 ねはんえ(涅槃会)について

VOL.4
ねはんえ(涅槃会)について

 2月15日はねはんえといって仏教の開祖、お釈迦(しゃか)さまの御命日です。紀元前550年、いまから2500年前のことです。お釈迦様はインドのシャカ族の王となるべきかたでしたが、政治や身分をすててより深く人生の真実を探求する志を立て、29才で出家されました。6年の苦行ののちにその苦行もすてて、35才で御自身の進むべき道を確認されました。これを「おさとり」とか「成道(じょうどう)」と申します。覚(さと)れる人(ブッダ)となったおしゃか様はその後45年の長きにわたってインド各地をまわられ、人々に生きる方向を示され、80才の2月15日に入滅(にゅうめつ)」されました。お釈迦さまのことを人々は心から敬うやまって釈尊(しゃくそん) とお呼びします。

 釈尊は生涯を通じて真実なるものを探求され人々の心を迷信から解放され、自由と平等を主張され、神話の神などではなくて、練りあげられた、よりよく整えられた髙い人格を光として、敬虔(けいけん)にしかも力づよく生きることを教えられました。

 釈尊の最後のおことばはこうです。「弟子たちよ、すべてはうつろっている、おこたることなく努力しなさい」と。そして釈尊の80年のご生涯こそまさに精進(しょうじん)努力そのものであったのです。仏教の主張である寛容(かんよう)、慈悲、自由、敬虔な祈りという旗じるしは、2500年後の現在まで広く深く、世界の人々に生きつづけているのです。なおこの日に各寺院の本堂に掛けられる掛軸((かけじく)は「涅槃図(ねはんず)」といって、釈尊の御臨終(ごりんじゅう)の場面を画いたもので、『大般涅槃経(だいはつねはんぎょう)』という経典に依(よ)っています。弟子たちや動物たちまでも、この人類の指導者の死を悲しんでいます。一番外側にいる神々たちは、インドのさまざまな宗教の神々で、そういう信仰を持つ人々も皆が悲しんでいることを図示しているのです。仏教にはめずらしいこのドラマティックな情景は、芸術家たちの心を刺戟して、昔から時代を代表する画家たちが競ってねはん図を画き、現在まで立派な作品が沢山残っております。

約300年前、江戸中期の作品です。

なつかしの濁世の雨やね涅槃像
なつかしの濁世の雨やね涅槃像

真言宗豊山派総合研究院院長 加藤精一

※本頁の肩書きは、寄稿いただいた当時のものです。